スピーカーだけが欲しかったのだが、
某オークションで割安な出品を見つけたので、一式を入手した。
Victorは国内では格別なごひいきメーカーだ。国内メーカーといってもアキュフェーズ、ラックスの両社は高価格帯のものが多く、その製品は長い間、仰ぎ見る目標でしかなかった。その点、ビクター、ケンウッド、パイオニア、サンスイ、さらにはオンキョー、テクニクス、ヤマハなどはもっと身近な価格帯の製品が中心で、オーディオ小僧のよき友だったように思う。
私は、アンプやチューナー、アナログプレーヤーでもビクター入門機のお世話になっているが、とくにスピーカーには思い入れがあり、新品購入でSX-3Ⅱ、SX-511、SX-WD5、中古購入でSX-3Ⅲ、SX-V05、SX-V1A-Mと、これまで6組にスピーカーを聴いてきた。同社には、ユニークなバックロードホーン(FB-5)とか、無指向性システム(GB-1シリーズ)などもあって、とくにスピーカー開発に熱心なメーカーの印象がある。
私が選んできたのはそうした意欲作でなく、入門機であってもクラシックをバランスよく聴かせるといったタイプのものばかりだ。どれも、耳障りな要素のない練り上げられた響きを持っており、母体がレコード会社であるというこじつけでなく、国内の他のメーカーのものより「音楽的」であると感じて、満足度は高かった。
私にはまったくダメだったSX-WD5。
ただし、最後の新規購入品となったSX-WD5だけは例外だ。振動板に木を使ったウッドコーンには注目し、また期待もしたし、無垢のチェリーを使ったキャビネットもぜいたくに音の響きを追及したものだったのだが、私の耳にはどうしても合わなかった。原因はウッドコーンのウーファー部でなくツィーターだと思うのだが、数か月鳴らしこんでも固有の刺激音がとれず耳に痛い。結局は手放すことになったのだが、このスピーカーの世評はそう悪いものではなかった。後にキット化までされているので、販売成績はいちおう合格点だったと思う。ただし、現在の中古市場での価格を見ると、愛着を持たれている製品とはいえないようで年代の割には低空飛行。SX-WD5に惚れているという人は多くないようだ。
ウッドコーンには、スライスした木材を日本酒に浸すことで加工を可能にしたとか、ミュージシャンたちの耳で音の着地点をさぐったとか、開発の苦労話も多く、何より「天然木を振動させる」という発想に共感を呼ぶ要素がある。にもかかわらず残念な結果だったのは、このSX-WD5には手頃な製品でウッドコーンの認知度を高めようと製品化を急ぎすぎた印象があるためではないかと思っている。価格設定を含めて、商品としての練り上げが十分ではなかったのではないだろうか。
これがシスコンのスピーカー部、SP-EXA1。ユニット径は8.5㎝。
単売はないが、キット製品(SX-WD1KT)が発売されている。
また、JVCケンウッドSX-WD30は実質後継機で完成品の単売がある。
重量、サイズがわずかに大きく、再チューニングされた製品と思われる。
だがウッドコーンにも意外に健闘している製品がある。それがSP-EXA1というシングルユニットを使った小型スピーカーで、単売はされていない。「EXA1」というシステムコンポの構成パーツなのだが、スピーカーが評判を呼び、単独でオークション取引されているケースが多い。今回はこれを聴いてみた。ツィーターのないシングルコーンで、ウッドの良さが最大限に発揮されるのではないかという期待を持って・・・。
結果は使い方次第ということになってしまうのだが、少なくとも一般的なピュアオーディオスピーカーのような使い方には適さないと思う。
デスクトップの比較的近い距離で聴くと、バランスがとれて意外なほど低音も出る。広告写真のように、アンプと並べてサイドボードの上などに置き、ステレオ感など求めずに良質なBGMを流すという用途でなら、しゃれたデザインと合わせて良い製品だと言えるだろう。ただ、左右スピーカーを1.5mくらいまで広げて、オーディオ的な聴き方をしようとすると、中域の厚みが保てず、音の存在が希薄になる。
また、システムのアンプと切り離し、セパレートアンプにつないで単独で使用すると、かなりシャリついた高音寄りの音が出てくる。その意味では、同じシングルコーンのBOSE121より高音の不足感はない。が、いかんせん中低音が足りない。ところが、音量を上げていくと、徐々にバランスが整って、やや大きめくらいのところまでいくと、悪くない帯域バランスになる。ウッドコーンは、かなりの音圧で揺すってやらないと性能を発揮しないのか。たしかに、超軽量素材に比べると振動しにくそうなイメージがある。オーディオマニアではない普通の人が家庭で聴く音量はずっと小さいはずで、そのあたりの音量では、トンコンで低域を持ち上げないとバランスがとれない。
この、小音量での低音の不足感は、実はペアのアンプで相当カバーされている。つまり、初めからラウドネスがかけられたような特性のアンプに仕上げられているので、このアンプも単体使用には適さないように感じた。このシステムはDVD(及びDVDオーディオ)の再生にも対応しているので、映像を楽しむ場合にはこれを「迫力」ととらえる人は多いのかもしれない。
このDVDに対応、という機能から、ピュア用よりはホーム用途の万人向け製品という性格づけをした商品であることがわかる。ならば、こんなところにウッドコーンを使う必要があったのか・・・。結果的に、9諭吉と高めの価格になったのでは、本末転倒。洗練されたビジュアルではあるが、サラウンド用のスピーカーも付いていないし、全体がコンパクトなので「高い!」という印象は免れない。パッと見では498のシスコンというところか。結局、この手の製品としてはちょっと中途半端で値崩れは早かった印象がある。
システムは人気にならなかったが、このスピーカーの評判だけが独り歩きしたのは皮肉な結果だ。たしかに悪くないスピーカーではあるが、やはり単独ではなくメーカーが提案するシステムとして使うのが良いというのが私なりの結論だ。
気になるのは、アマゾンなどで読めるキット版のレビューが相当良いこと。ヴァイオリンやピアノの音が素晴らしいと・・・。これは多分、それまで聴いていたミニコンとの比較で言っているのだとは思うのだが、目の前にあるシングル・ウッドコーンスピーカーはそこまで良くない。やはり、ロジャースやスペンドールとは相当開きがあると聴こえてしまうのだ。(価格からして、当然と言えば当然ですね。)
我が家での用途としてはPC用が残された道なのだが、PC用に向く手頃なサイズの本格スピーカーは何組かあるので、それらを押しのけてまでこのウッドコーンスピーカーを使うかとなると??である。拙宅のようにオーディオ機器が散乱していないしゃれたリビングで、音楽好きの若いご夫婦がさりげなく音楽を楽しむという用途がこのスピーカー本来の姿ではないだろうか。