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Channel: 音の味わい、人の味わい
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増し締め

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オーディオにおいて“増し締め”と聴いて何を連想されるだろうか。
 
私は、スピーカー中心のオーディオなので、当然スピーカーBOX、とくにユニットの取り付け状態をイメージする。アンプの外装などでもボルトの緩みを締め直すことはあるだろうが、“増し締め”というのとはちょっと違うだろう。
 
さて、先日手に入れたセレッションのA1の鳴らし込みの過程で、この“増し締め”に直面した。中古のスピーカーを手に入れると、たいていはユニットの取り付け状態をチェックするのであるが、今回のA1は、前オーナーがかなりのオーディオ通であるうえに、梱包などにもこの上なく配慮の行き届いた方であったので油断があり、いつも行う状態チェックをせずに鳴らしていた。
 
前回のレポで「音像が大きめで、輪郭もアマ目なセレッションの音」と書いてしまったが、同社を代表するディットン66はけして尖がった音を出さず、しかし、音楽の本質をきっちり描き出す、まさにそういう音だった。
こうした先入観もあり、輪郭アマ目なA1の出音にさしたる疑問を感じることもなかったのだが、あらためてユニットを取り付けたボルトの締め直しに着手すると、驚くほど緩んでいた。木で形成されたBOXは季節ごとの湿度で膨張と収縮を繰り返す上に、スピーカーユニットはかなりの振動でゆすられるのであるから、両者の勘合に緩みが生じるのは至極当然だ。一定期間ごとに点検が必要だろう。
 
オーディオに限らず、一般用語として「トルク管理」という言葉があるほど、この“ボルトを締める”という行為は重要で、緩みは本来の性能発揮を妨げ、締めすぎは、構造物や部品の破損を招く。したがって、トルクレンチなどを用いて適度な締め付けをするのが本来であるが、今回は完全手動で行った。
 
スピーカーでは、作業の状態が問題になる。つまり、垂直に正立した状態で締め付けるのは適正かどうかという点だ。この状態では、重力による下向きの力がユニットにかかっているので均等な締め付けは難しく、結果としてゆがみが生じるのではないか、というのが私の拙い判断である。
 
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この状態で締め付け作業をするのが楽ではあるが・・・

ということで、水平に置き各ボルトにかかる重力が均等になる状態を作ったうえで、ローテーションしながら締めつけていく。
わかりやすく言うと、1本ずつギュッと締めては歪みが生じるので、まず60%くらいの締め加減で対角線上のボルトを順番に締めていき、2回り目で90%くらいの力加減まで締め上げる。10年前ならもう少し力があったので、80%くらいが適正値だったか。
間違っても100%で締めてはいけない。「ゆるすぎ」なら追加調整ができるが、「締めすぎ」は、破損あるいは部材の弾性喪失につながるので要注意だ。
 
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床上に上向きに置いて、均等加重を心がけつつ“増し締め”
 
こうして、ユニットの取り付け状態が改善された(?) A1は、ズン!と沈み込む低音の凄みを維持しつつ音像の明瞭度が増し、音像の引き締まりがみられた。これなら、オーソドックスで立派な(堂々とした)音を出すオールラウンド型スピーカーである。ヴォーカルも弦も、さらにはパーッカッションもいける。絶対値としてのレベルもなかなかのものだと思う。その一方で、バランスが整いすぎ、セレッションらしさと感じていた個性が薄まって面白みが後退した印象も否定しきれない。我ながら勝手なものである。(>_<)
 
ついでに、半年ほど前に“増し締め”を施したはずの、同じくセレッションSL-6Sにも六角レンチを当ててみると、こちらも何箇所かゆるみが生じていた。締め直すと、音像が凝縮して、スケール感だけでなく繊細さも表現できるスピーカーであることを証明してみせた。
 
この“増し締め”の結果は、ほぼイメージどおりであることが多く、強めに締めると音が引き締まるが、行き過ぎると潤いのない痩せて乾いた音になる。気のせい、というだけでなく、確かに音が変わる。構造物の結合状態が変わるのだから音に影響が出て当然だが、どのくらいが適当か、あるいは“適当”の範囲内で自分の好みの音はどのあたりかを決めるのはユーザー自身の耳である。
 
機種やケーブルの選定に加えて、こうした運用行為でも使い手としてのセンスを問われる・・・その集積がそれぞれのシステムの音になる。
「音は人なり」と言い、性格や価値観までが反映されるというオーディオは、けっこうコワイ趣味だ。心の中までのぞかれるのが嫌なら、本当は他人に聴かせてはならないのである。

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